KDDIのJCOMへのTOBは脱法行為か?

焦点:KDDIのJCOM出資手法は適法か、TOB解釈で専門家も二分
1月28日(木)22時
 1月28日、KDDIジュピターテレコム(JCOM)への資本参加をめぐり、法律の解釈で専門家の意見が割れている。写真は2008年11月、KDDIの東京本社で(2010年、ロイター)

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東京 28日 ロイター] KDDI<9433.T>のジュピターテレコム(JCOM)<4817.Q>への資本参加をめぐり、法律の解釈で専門家の意見が割れている。KDDIは、JCOMの大株主となっている中間持ち株会社が持つJCOMの株式を相対で買い取り、議決権の3分の1以上を握る方針だが、株式公開買い付け(TOB)を行わない。KDDIは、株を買い付ける対象者が有価証券報告書を提出していない中間持ち株会社のため、TOBルールの適用外と判断しているためだ。しかし、弁護士や学者などの一部からは、直接買い付ける対象がTOBルールの適用外でも、結果として3分の1以上の議決権を取得するのに変わりがなく、TOBルールに従うべきと指摘。一般株主が無視されたまま支配権の異動が起き、全株主を公平・公正に扱おうとする法律の趣旨に反すると疑義を唱えている。
 KDDIは25日、JCOMの株主で、米リバティグローバル・グループが保有する中間持株会社3社のJCOMの持分を、3617億円で買い取ると発表した。譲渡は相対で、2月中旬をめどに実施される予定。KDDIはJCOMの議決権を37.8%握る筆頭株主になり、JCOMの支配権異動が発生する。
 ここで焦点となるのは、TOBルールの解釈だ。JCOMの森泉知行社長兼最高経営責任者も28日の会見で、今回の株式の取得方法について「(取得方法が)適法か確認しないと(KDDIとの)協議は前進しない」と述べ、取得方法が適法か違法かの判断を専門家から仰ぎ、その結論を待つ考えを示した。森泉社長は、適法となれば協議を前向きに進める方針。両社にとっても、今回の取得方法が適法か否かは今後の戦略を描く上で焦点となるため、金融庁や担当弁護士などの判断が待たれる。
 <TOBルール、有報提出会社に適用との明文>
 通常、議決権の3分の1以上の株式を取得する意思のある買い手は、金融商品取引法に基づき、対象会社の株式をTOBで買わなければならない。買い取り価格を広く提示し、一般の株主もその価格で応じたければ応募できるよう、公平に機会を設ける狙いがある。
 ルールは、対象会社が未上場でも、社債などによる資金調達のために有価証券報告書(有報)を提出している企業であれば適用される。2008年に大阪証券取引所<8697.OJ>が未上場のジャスダック証券取引所を買収した際、TOBを実施したのはこのためだ。
 今回、KDDIはJCOMの株式を保有する中間持株会社から相対で取得する方針だ。TOBを行わない理由について、KDDIの法務アドバイザーであるスキャデンアープスは、1)買い付ける対象会社が有報提出会社ではない、2)KDDIは直接JCOMの株を買いに行くのではない、3)中間持ち株会社は今回の買収のためだけに設立されたビーグルではない──などと説明。TOBルールは適用されず、問題はないと述べる。
 西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士は、3分の1以上の取得を目指す買い手に、強制的にTOB義務を課す現行の制度の合理性をどうみるかによって見解は分かれ得る、としたうえで「法律の趣旨からするとどうかという議論はある。しかし、中間持ち株会社が以前から存在するなら露骨な脱法とはいえず、違法とまでは言えないのではないか」と語る。
 <法解釈、実質で議論すべきとの意見も>
 これに対し、TOBが必要とみる専門家は、TOBルールが有報提出会社に適用される規定とはいっても、有報提出会社でなければTOBルールを適用しなくてもいいとの解釈にはならない、と主張する。
 今回のような取引では、最終的に支配権が異動し会社の経営に影響を及ぼすことになるため、一般株主にも意思を問う機会が与えられるべきで、TOBを経ないで急に3分の1以上を保有する大株主が現れるのはおかしい、との考えだ。
 TMI総合法律事務所の中川秀宣言弁護士は「KDDIはJCOMに直接TOBをするべきではないか」と指摘する。今回の開示資料だけでは中間持ち株会社の中味を明確に理解するのは難しい、としながらも、JCOMの株式を保有する以外の機能がない、実質ペーパーカンパニーであれば「TOBルールに照らして(今回のやり方は)おかしい」と語る。
 早稲田大学法学部の上村達男教授は、予定通り相対で株式が譲渡されれば「公開買い付けルールの脱法行為とみる余地は十分にある」と述べる。
 TOBが行われずに支配権の異動が起きることについては「JCOMの株主に起きてはいけないことが起きている。(TOB)制度の趣旨に反している」と話す。有報提出会社でなければTOB規制の適用外になるとの意見もあるとの見解に対し、上村氏は「法の不備はあるかもしれないが、実質解釈をすることで証券市場は成り立つものだ。村上ファンドライブドアの事件を経て、やれば何でも通るという時代は終った」と語り、形式より、実質に基づく判断をすべきと述べている